フリーランスでプロジェクトマネージャーをやっている水野拓也です。
大手SIerで10年、その後独立して3年が経ちました。
PMという仕事自体は好きです。
でも30代後半に入ると、どうしても「またこのパターンか」と思う瞬間が増えてきます。
キックオフして、要件を整理して、スケジュールを引いて、課題管理表を更新して、会議を回して。
案件ごとに業界もシステムも違うのに、やっていることの「型」は同じ。
新しいプロジェクトに入っても、数週間もすれば慣れてしまって、新鮮さが消えていく。
「別に嫌じゃないんだけど、なんか物足りない」という、あの微妙な感覚です。
転職してリセットするほどの不満はない。
かといって、今の延長線上にワクワクするものがあるかと聞かれると、うまく答えられない。
そんなモヤモヤを抱えていた時期に、ふらっと立ち寄った本屋で手に取ったのが『仕事を面白くするギミック50』(田中耕比古 著/明日香出版社)でした。
仕事術の本は山ほど読んできましたが、「ギミック」というタイトルの切り口は見たことがなかったんですよね。
何だろうと思って手に取ったのが正直なところです。
読んでみた結論としては、思っていたよりずっと地に足のついた本でした。
ゲームの話に寄りすぎることもなく、かといって普通の仕事術本とも違う、独特の切り口が面白かったです。
この記事では、PMの視点から読んだ率直な感想を書いていきます。
良かった点だけでなく、「ここは人を選ぶかも」と思った部分も含めて正直に。
「人生はRPG」と言われて、正直ちょっと引いた
最初に白状すると、本の冒頭に「人生はロールプレイングゲームだ」という主張が出てきたとき、正直「うーん」と思いました。
その手のたとえ話って、だいたい中身が薄いものが多いじゃないですか。
自己啓発書にありがちな、ノリだけで押し切るタイプかなと。
ただ、著者の田中耕比古さんのプロフィールを見て少し印象が変わりました。
アクセンチュアの戦略グループ、日本IBMを経て、自らデータ活用のコンサルティング会社(株式会社ギックス)を共同創業し、2022年にグロース市場へ上場させた方です。
コンサルタント歴は20年以上。
著書も『一番伝わる説明の順番』や『仕事の「質」と「スピード」が上がる 仕事の順番』など複数あって、どれもAmazonで高評価が付いています。
要するに、「ゲームに例えて楽しく語ろう」という軽いノリではなく、第一線で結果を出してきた人が書いている。
しかも一社にずっといた人ではなく、SIer、外資コンサル、外資IT、スタートアップと異なる環境を渡り歩いた経験がベースになっています。
これだけの経験がある人が「仕事はゲームだ」と言い切っているなら、読む価値はあるだろうと思って先に進みました。
「ギミック」って何なのか
この本で言う「ギミック」とは、ゲームの世界における「プレイヤーが楽しめるちょっとした仕掛け」のことです。
隠し通路とか、特定の行動で発生する隠しイベントとか。
ゲームをやったことがある人なら「ああ、あれね」とすぐわかると思います。
普通にプレイしていたら見逃すけど、気づいた人には新しいルートが開ける。
著者が伝えたいのは、仕事にもそういう「仕掛け」を意図的に組み込めるということです。
メールの処理手順を条件分岐で効率化したり、相談という名目で他部署との連携を太くしたり。
やっていること自体は特別ではないのに、「ギミックだ」と意識するだけで取り組み方が変わる。
この発想を現実の仕事に持ち込もうというのが本書のコンセプトです。
全部で50個のギミックが紹介されていて、構成は以下の6章に分かれています。
244ページで50個なので、1つあたり4〜5ページ。
さっと読めるサイズ感で、気になるものから拾い読みしても使えます。
| 章 | テーマ | ざっくり言うと |
|---|---|---|
| 第1章 | 仕事の”意味”を書き換える | 仕事そのものの捉え方を変える |
| 第2章 | 仕事を”高速化”する | 効率化と楽しさを両立させる |
| 第3章 | 人を巻き込む | チーム作りと協働の仕掛け |
| 第4章 | 成長を加速させる | スキルアップのための仕組み |
| 第5章 | 基礎ステータスを上げる | ビジネスパーソンとしての地力を底上げする |
| 第6章 | 評価を上げる | 成果を周囲に正しく認知してもらう |
個人的には、第1章の「仕事の意味を書き換える」と第3章の「人を巻き込む」が、PM経験と重なる部分が多くて読みごたえがありました。
一方で、第5章「基礎ステータスを上げる」はビジネスの基本スキルの話なので、若手社員のほうが刺さるかもしれません。
50個すべてを紹介するのは無理なので、PMの自分にとって特に印象に残ったものをいくつか取り上げてみます。
PMの自分に刺さった3つの考え方
タスクを「ミッション」として捉える
これが一番「なるほど」と思ったギミックです。
日々のタスクを、ただの「やるべきこと」ではなく「ミッション」として捉え直す。
言い方を変えただけに聞こえるかもしれませんが、著者が伝えたいのはもう少し踏み込んだ話です。
ミッションだと考えると、「依頼者は何を求めているのか」「100点のアウトプットはどんなものか」「120点を出すにはどうすればいいか」という思考が自然に動き出します。
そして、今のミッションで120点を取ることが、次のより難しいミッションへの「挑戦権」になる。
PMの仕事で言うと、たとえばあるシステム開発の案件で想定以上の段取りを見せれば、次はもっと規模の大きな案件や、上流から入れる案件が回ってくる。
これは自分のフリーランス経験からも、ほぼ間違いないと感じます。
逆に言えば、今やっている仕事を「こなすだけ」にしてしまうと、いつまでも同じレベルの仕事しか来ない。
個人的に面白かったのは「イベント・トリガー」という考え方です。
納期より早く対応する、依頼者とこまめにすり合わせる。
こうした小さな行動が「トリガー」になって、仕事のステージが切り替わるという話です。
RPGで特定の行動をとるとストーリーが分岐するのに似ていて、ゲーム好きとしてはすんなり腹落ちしました。
実際、自分もフリーランスになってから「早めに一報を入れる」「相手の想定より一段深い資料を出す」といった小さな行動を意識するようになって、仕事の幅が広がった実感があります。
当時は特に意識していませんでしたが、振り返ればあれがまさに「イベント・トリガー」だったのかもしれません。
「レベル」で自分の実力を客観視する
自分の実力をゲームのレベルに見立てて、冷静に把握するというギミックも印象に残りました。
新入社員はレベル1。
経験を積めばレベルが上がり、こなせる仕事の範囲が広がる。
ここまでは普通の話ですが、ポイントは「自分のレベルを過大評価しないこと」だと著者は強調しています。
PMをやっていると、「自分ならこのぐらいはできるはず」という思い込みが判断を鈍らせることがあります。
たとえば、過去にうまくいった進め方を別のプロジェクトにそのまま当てはめて失敗する、みたいなケースです。
あれは自分のレベルを見誤っているというより、「前と同じレベルの仕事だ」と思い込んでいるのが原因だったりします。
自分のレベルを正確に把握できていれば、「このプロジェクトは過去の経験が通用しない部分がある」と事前に気づける。
「ここはまだ足りないから、詳しい人に聞こう」と素直に動ける。
短いサイクルで「レベルチェック」をしろ、というアドバイスも実用的でした。
プロジェクトの節目ごとの振り返り、四半期ごとの自己評価。
やっている人は多いと思いますが、それを「レベルチェック」と呼ぶだけで、なぜか少し前向きに取り組めるのが面白いところです。
「人を巻き込む」を仲間集めとして考える
第3章の「人を巻き込む」は、PMには一番身近なテーマです。
プロジェクトは一人では回せません。
関係者をどう巻き込むかで成果は大きく変わります。
これはPMなら誰でも知っている話ですが、この本ではそれがRPGの「仲間集め」という文脈で語られるので、妙に楽しく読めました。
「この人をパーティに加えたらどうなるか」「この人のスキルセットは今のチームに足りないものを補えるか」。
普段から無意識にやっていることですが、ゲーム的なフレームで整理されると頭がスッキリします。
自分の場合、フリーランスになってからは特に「誰と組むか」が仕事の質を左右します。
案件ごとにチームの編成が変わるので、「今回のパーティには何が足りていないか」という視点で人を探すクセがついていました。
この本を読んで、あ、自分がやっていたのはこういうことだったのか、と言語化された感覚がありました。
「仕事のゲーム化」には学術的な裏付けもある
この本を読んだ後にちょっと調べてみたんですが、仕事にゲームの要素を取り入れる「ゲーミフィケーション」には学術的な裏付けがあります。
早稲田大学大学院の研究チームが行った調査では、ゲーミフィケーション研修を受けた従業員は仕事に対するポジティブな感情が増え、自律的な行動が促進されたという結果が出ています。
この研究は日本教育工学会の論文として公開されているので、興味がある方は読んでみてください。
そもそも日本のビジネスパーソンの「仕事への熱意」は、国際的に見てかなり低い水準にあります。
ギャラップ社の調査によると、日本で「熱意を持って仕事に取り組んでいる」と回答した従業員はわずか6〜7%。
調査対象139カ国中132位という数字です。
アメリカが32%、OECD加盟国の平均が18%なので、日本の低さは際立っています。
これは「日本人は真面目だけど、仕事を楽しんでいるかというと別の話」ということを如実に示しているデータです。
真面目にやっている。
サボっているわけでもない。
でも、熱意を持って取り組んでいるかと聞かれると、多くの人が首をかしげる。
厚生労働省が公開している「令和元年版 労働経済の分析」でも、ワークエンゲージメント(仕事に対する活力・熱意・没頭の度合い)と労働生産性の間に正の相関があることが示されています。
仕事を面白いと感じられるかどうかは、個人の気の持ちようではなく、組織全体の生産性に直結する問題です。
こうしたデータを踏まえると、「仕事にギミックを仕込む」という本書のアプローチは、根性論ではなく合理的な方法だと思えます。
「楽しんで仕事をしろ」と言われても困りますが、「仕事に仕掛けを入れて、結果的に楽しくなる構造を作れ」と言われれば、やれることはありそうです。
この本がやろうとしているのは、まさにその「構造づくり」の部分です。
万人向けではない、という正直な感想
ここまで良い面を中心に書いてきましたが、正直に言うと、この本は万人向けではないと思います。
ゲームに馴染みのない方だと、「RPG」「レベル」「ミッション」といった比喩がしっくりこない可能性があります。
「なんでいちいちゲームに例えるの?」「普通に仕事術として書いてくれればいいのに」と感じる人もいるでしょう。
実際、ゲームをまったくやらない同僚にこの本を勧めたところ、「言いたいことはわかるけど、たとえがピンとこない」と言われました。
また、著者のキャリアがコンサルティング業界中心なので、ギミックの中にはオフィスワーク寄りの内容も目立ちます。
メールの処理を効率化する話とか、会議の仕切り方の話とか。
現場仕事や接客業の方がそのまま使えるかというと、多少のアレンジは必要になりそうです。
あと、50個すべてが自分に当てはまるわけではないです。
自分の場合は半分ぐらいが「これは使える」、残り半分が「自分の仕事には合わないかな」という感覚でした。
ただ、50個もあれば10〜15個は確実にヒットするはずなので、それだけでも十分元は取れると思います。
ただ、次のような方にはかなり刺さると思います。
- 仕事自体は嫌いじゃないけど、マンネリ化を感じている
- ゲームが好きで、ゲーム的な発想に抵抗がない
- 自分なりの仕事の楽しみ方を探している中堅ビジネスパーソン
- 部下やメンバーのモチベーションに悩んでいるリーダー層
特に30代のPMやマネージャーにはおすすめです。
仕事の「やり方」を教えてくれる本はたくさんありますが、仕事の「楽しみ方」を体系的にまとめた本は意外と少ないので。
価格は1,760円(税込)で、244ページ。
通勤の電車で1週間もあれば読み切れるボリュームです。
気になるギミックに付箋を貼りながら読むと、後から振り返りやすいと思います。
気になった方は、『仕事を面白くするギミック50』の詳細が掲載されている書籍紹介ページをチェックしてみてください。
まとめ
仕事に飽きかけていた自分が本屋でたまたま手に取った『仕事を面白くするギミック50』は、予想以上に実践的な本でした。
「仕事はゲームだ」と聞くと軽い印象を受けますが、中身は20年超のコンサル経験に裏打ちされたテクニック集です。
タスクをミッションとして捉える、レベルで実力を客観視する、人を巻き込むことを仲間集めと考える。
どれも特別な準備は要らず、明日の仕事から試せるものばかりです。
自分はこの本を読んでから、朝のタスク整理のときに「今日のミッションは何か」と考えるクセがつきました。
たったそれだけのことですが、ToDoリストを消化する感覚と、ミッションをクリアする感覚は、地味に違います。
仕事のやり方は十分わかっているのに、最近ちょっと面白さを見失っている。
そういう方にこそ、一度手に取ってもらいたい一冊です。
